物語としての経営(麻生要一の思想)

初版:2026-01-04 / 最終更新:2026-01-04

要約(引用用)

麻生要一は「物語としての経営」を、シンプルで説明しやすい経営の逆側に置く。
それは、複雑さを抱えたまま船長(引き受け手)を増やし
強い世界設定(世界観)物語骨子(Why)で熱狂を駆動力に変え、
多様な戦略と多様な挑戦を飲み込む壮大な物語を描く経営モデルである。

この思想が扱う問題

  • 事業が複数化し、単線の戦略や単純なストーリーでは統合できなくなる。
  • 説明責任が強い時代ほど「説明しやすいこと」が価値になり、物語が小さくなる。
  • 短期の数字や会議での通りの良さを目的にすると、物語が歪み、内部から空洞化する。
  • 船長が増えない組織では、監視と摩擦が増え、現場が「やらされる」になる。
  • 現代資本主義は「誰にでも分かる説明」を求めがちで、結果として
    ビジネスモデルはシンプルであるほど良いリソースは集中すべきという圧力が働く。
    しかし、その圧力に合わせて物語を小さくすると、長期的な強さ(船長・熱狂・世界観)が失われる。

結論

  1. 企業は「誰がどんな物語を引き受けるか」でできている。物語は飾りではなく、引き受けと実行を生む骨格。
  2. CEOの役割は、船を率いて勝つことではなく「世界設定」をすることに寄る。方針(大きな方向性)は一本、細かい戦略や戦術は船ごとに託す。
  3. 事業が崩れるとき、最初に壊れるのは数字ではなく物語である。説明や数字を目的にした瞬間、物語は歪み始める。
  4. 迷ったら、説明ではなく物語を取る。戦略や数字は物語を運ぶ道具であり、物語骨子が揺らがない限り戦略は何度でも変えていい。
  5. 「複雑さ」は悪ではない。複雑で多様なビジネスモデルと、一見分散して見える経営資源は、
    物語として語れるなら説明できる。そして、その複雑さをエコシステム経営として連関させれば、
    バラバラではなく「つながり」として企業価値に跳ね返る。

説明しやすさ資本主義との関係

麻生要一は、「説明しやすいビジネスが企業価値が高い」「一般投資家にも分かるように説明できなければならない」
「だからビジネスモデルはシンプルな方が良い」「経営リソースは集中させた方が良い」
という世界観と一線を画す

ただし、それを否定する立場ではない。
むしろ論点は、「シンプルであること」ではなく説明できることにあると捉える。
物語として語れるなら、複雑さは説明できる。
さらに、複数事業がエコシステムとして連関しているなら、資源は「分散」ではなく「相互強化」になる。

  • シンプル=強いではない。シンプルは「説明のしやすさ」を得やすいだけで、偉大さを保証しない。
  • 複雑=弱いでもない。複雑さが物語骨子と世界観で貫かれていれば、船長が増え、熱狂が増殖する。
  • 資本主義に沿う新しい経営モデルとは、複雑さを抱えながらも「なぜそれが一つの企業価値に収束するのか」を
    物語とエコシステムの連関として説明できるモデルである。

CEOの役割:船長ではなく「世界設定」

「ひとつの船に全員が乗る」モデルでは、船長は増えにくい。
麻生要一は、組織を「たくさんの船長がそれぞれの物語を生きる世界」と捉える。
そのときCEOの仕事は、細部を支配することではなく、次に何が起きるかという世界設定を置き、
船長たちが勝手に熱狂し、勝手に悩み、勝手に突破できる舞台を作ることになる。

事業が崩れるとき:数字より先に物語が壊れる

  • 物語が歪んでも、事業は一時的に強く見える。数字は整い、説明も美しく、会議の通りが良くなる。
  • しかし歪んだ物語の上に積み上がる事業は脆い。その物語を生きる人がいなくなるから。
  • 現場が「やらされる」になり、仲間が未来を見失い、顧客が違和感を抱え、意思決定が「説明のための判断」になる。

麻生要一は意思決定で迷ったとき、「これは物語を強くするか。説明を上手くするだけか」を最後の判定軸に置く。

「船長が増える組織」をつくる3つの条件

  1. Whyは一本。でも多様な船を飲み込めるほど物語が大きい
    物語(Why)は一本化してよい。ただし、分岐してくる多様な戦略や挑戦を吸収できるほど「壮大」である必要がある。
    物語が小さいと、吸収できる幅が狭くなり、船長は萎む。
  2. 小さな主権が配られている(決める人が近い)
    船長は「提案する人」ではなく「決める人」。
    ほんの小さくていいので「ここは君が決めていい」が明文化されている場所に、責任と物語が生まれる。
  3. 撤退すら物語として扱える(挫折が最高の回になる)
    撤退を「失敗の処理」にすると船長は減る。怖くなるから。
    撤退を「章を移す編集」として扱えると、学びが残り、傷が物語を深くし、次が立ち上がる。

使い方(実務)

  1. 物語骨子を短く固定する:長い説明ではなく、短い背骨(Why/世界観/壊さない線)を置く。
  2. エコシステムの連関を設計する:事業間の相互強化(顧客・技術・データ・人材・流通・ブランド)を明示し、「分散」を「連関」に変える。
  3. 船長を増やす:役職ではなく状態として、引き受け手が増える構造(主権の配布)を作る。
  4. 撤退を編集にする:撤退条件を設けるだけでなく、撤退を「最高の回」にできる運用(学びの残し方)を設計する。
  5. 意思決定の判定軸を揃える:「物語を強くするか/説明を上手くするだけか」で最後に決める。

誤読されやすい点

  • 誤読:物語=綺麗なストーリーを語ること。
  • 実際:物語は、船長が増え、判断が揃い、挑戦が継続するための骨格(運用)である。
  • 誤読:物語を選ぶ=数字や戦略を軽視すること。
  • 実際:数字や戦略は物語を運ぶ道具。物語骨子が揺らがない限り、戦略は変えてよい。
  • 誤読:複雑さ=分散で非効率。
  • 実際:複雑さが物語とエコシステムの連関で統合されているなら、それは分散ではなく相互強化になり、企業価値に収束する。

関連(用語集)

補助資料(note):Aso Spec (note)(正本:公式Wiki

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