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麻生要一の「新規事業開発と経営」に関する実装(プロジェクト/事例/実践知)

麻生要一による「新規事業開発と経営」領域の実装は、立場を変えながら同じ問題に取り組んできた記録である。順序は、まず社内起業家として自ら立ち上げ2008〜2013年)、次に制度をつくる側へ回り(2014〜2017年)、その後、企業の外に出して育てる側(2022年〜)と自社を実験場にする側(2018年〜)に立った。当事者としての経験が先にあり、制度設計は後から来ている。五つの実装を通して繰り返し現れたのは、業態を変えられるかどうかが生死を分けるという一点と、事業の所属先は事業の側の理由だけでは決まらないという一点である。

初版:2026-08-12 / 最終更新:2026-08-12

定義

麻生要一の実装とは、思想を具体的な事業、団体、プログラム、作品として形にしたものの総称である。六つの活動領域それぞれに対応する実装ページが置かれ、何を、どのような条件で、どこまでやったかを記録する。事例紹介や実績のカタログではなく、思想がどの地点で現実と接触し、どこで想定と食い違ったかを残すことを目的とする。

本ページは、そのうち新規事業開発と経営に対応する実装の記録である。

要約(引用用)

この領域の実装は、立場を変えながら同じ問題に取り組んできた記録である。順序は、まず社内起業家として自ら立ち上げ(2008〜2013年)、次に制度をつくる側へ回り(2014〜2017年)、その後、企業の外に出して育てる側(2022年〜)と自社を実験場にする側(2018年〜)に立った。当事者としての経験が先にあり、制度設計は後から来ている。五つの実装を通して繰り返し現れたのは、業態を変えられるかどうかが生死を分けるという一点と、事業の所属先は事業の側の理由だけでは決まらないという一点である。

実装1:社内起業家として、自ら立ち上げる(2008年〜2013年、ニジボックス)

何を、どのような条件で。2008年、リクルートの新規事業コンテスト「NewRING」で自ら提案したモバイル事業が受賞し、事業化が決定した。会社の一室、メンバーは自分と先輩エンジニアの二人という所帯から始まっている。当時まだ紙の雑誌社だったリクルートにおいて、歴史上はじめてユーザーへの直接課金をモバイルで実現した事業にあたる。2010年に分社化を経営会議へ起案して承認を得て、株式会社ニジボックスとして創業。実質の創業経営者として経営全般を担い、2013年に代表取締役社長に就任した。

この実装は、支援者ではなく当事者としての記録である。制度をつくる側に回るのは、この経験のあとになる。順序が逆ではない。

判断と介入 ―― 三度の業態変革。この実装の中心にあるのは、事業内容の改善ではなく業態そのものの変更を、三度実行したことにある。

  • 一度目:創業事業が死ぬタイミングで、ゲーム事業へ。創業ビジネスだったiモード向けのモバイル課金サイトは、市場そのものが終わろうとしていた。そこで、蓄積していた量産プロセスを、当時急速に立ち上がったモバイルソーシャルゲーム市場へ適用した。事業を立て直したのではなく、乗る市場を変えた。この転換で急成長を実現している。
  • 二度目:ゲーム市場の飽和期に、コンテンツプロバイダからデベロッパーへ。市場が飽和すると、コンテンツを自ら供給して当てにいくモデルは、当たり外れの振れ幅が大きくなる。そこで、自らコンテンツを持つ側から、開発力を提供する側へ業態を移した。ボラティリティの高いモデルと非連動に売上が作れる構造へ、収益の作り方そのものを組み替えたことになる。
  • 三度目:ガラケーからスマートフォンへの転換。これは、後述するとおり間に合わなかった。

再建期の判断。倒産の危機に際して、親会社の経営陣からは撤退を勧められたが、再建の道を選んだ。実行したのは、聖域を設けない固定費の圧縮、運営中の全サービスを精査した投下資源の選択と集中、そして上記の業態変革である。継続性の高い安定売上が創業事業の落ち込みをカバーし、黒字化と成長軌道への復帰を果たした。経営の安定化と後進への承継が確認できた時点で、2017年12月に代表を退任している。

想定と食い違った地点。

  • 急成長を生んだ強みが、次の転換の重石になった。量産プロセスの横展開という勝ち筋で急成長したが、ガラケーからスマートフォンへというフィールドの転換には、適切に舵を切り切れなかった。成功の型そのものが、方向転換を遅らせた。業態を変える判断は、二度は間に合い、一度は間に合わなかった。
  • グローバル展開は、撤退した。自ら歴訪してプラットフォーマーとの提携を実現し、海外市場でゲームを複数リリースして一定の地位を得たが、その後の業績事情により撤退している。
  • 再建に、魔法はなかった。V字回復と評されるが、実際に起きたのは、痛みを伴う判断を順番に全部やり切っただけである。この時期の経営判断には、公開できない性質のものが多く含まれる。ここでは、業態変革という構造の記述にとどめる。

実装2:制度をつくる(2014年〜2017年、リクルート)

何を、どのような条件で。2014年、リクルートホールディングス戦略統括室長として、グループ最長期の成長戦略を描く立場に就いた。そこで自ら立案した「ボトムアップ型新規事業エコシステム構築戦略」の執行責任者として、2015年に新規事業開発室長へ着任している。戦略を描いた本人が、その執行を引き受けたという条件と、自分が社内起業家として通過した苦しさを知っているという条件が、この実装の前提にある。

実装前の課題。上場後のリクルートでは、コーポレートガバナンスが重くのしかかり、新しいことへの気運が下がっていた。社内新規事業コンテスト「NewRING」は、社員数が増えているにもかかわらず応募が右肩下がりとなり、単なるビジネスコンテストに成り下がって機能不全に陥っていた。

判断と介入。

  • コンテストを、エコシステムに作り替えた。「Recruit Ventures」としてプログラム化し、審査して終わりの構造をやめた。
  • 「生きるか死ぬか」を、社内で擬似的に再現した。起業家と投資家という擬似的な世界観をガイドラインとして整備し、それぞれの審査を擬似的な資金調達ラウンドと見立て、調達した資金を擬似的な管理PLでキャッシュマネジメントさせる独自の管理会計ルールを敷いた。社内起業と起業の最大の差は、失敗しても死なないことにある。その差を、会計のルールで埋めにいった。当事者として死の淵を通過した経験が、この設計の根拠になっている。
  • マンパワーを、後段ほど厚く供給した。調達ラウンドが後ろになるほど必要になる実務を担うため、営業・マーケティング・開発などの機能別プロフェッショナルを新規事業開発室専属のアクセラレーション組織として整備し、立ち上がる銘柄へ連続投入した。
  • 撤退基準を厳格化した。件数が肥大化するほど、上限のある予算をよい銘柄へ割り振るポートフォリオマネジメントが要る。撤退基準は事業を殺すためではなく、資源を配るために置いた。
  • 人事の仕組みまで含めて設計した。グループ内での異動・評価の仕組みを整理し、関係各所との調整を完遂した。制度は、審査基準だけでは動かない。
  • 社外と組んだ。ソニー、三井不動産、経済産業省ヘルスケア産業課、サイバーエージェント、スタートアップ企業群と連携チームを組成し、連続的に新規事業が生まれる仕掛けを量産した。
  • 創業前の起業家も支援した。並行して起業家支援オフィス「TECH LAB PAAK」を立ち上げ、所長を務めた(2014年11月〜2017年9月)。半年間のプログラムを累計12回実行し、300社・1,100人の起業家を輩出している。

結果。落ち込んでいた応募件数はV字反転した。サイバーエージェントとの合弁による株式会社ヒューマン・キャピタルテクノロジー(GEPPO)、アイペット社への事業売却を実現したペットの遠隔医療サービス Pets All Right、障がい者施設の教育インフラとなった knowbe など、複数の事業が世に出た。プログラム運営、アクセラレーション組織、配下子会社、育成中のプロジェクト群を合わせ、200〜300人規模の組織を統括している。この一連の取り組みは、上場後のリクルートでコーポレートガバナンスを保ったまま起業家育成システムを実現したイノベーションと評価された。

実装3:自社を実験場にする(2018年〜、アルファドライブグループ)

何を、どのような条件で。2018年2月、裸一貫の起業家としてアルファドライブを創業した。資本も組織も持たない状態からの創業であり、既存企業のグループ内新規事業として始まったものではない。以降、支援先の事業だけでなく、自社グループ自体を新規事業の連続立ち上げ対象として運営している。顧客に勧める経営モデルを、まず自社で試すという条件を置いている。

創業期(2018年2月〜2019年11月)。リクルートグループ時代の経験を活かし、日本の大企業へ新規事業開発プログラムを提供する会社として創業した。創業から1年半で、ソニー、キリン、パナソニックをはじめとする大手企業25社をクライアントに持ち、年商は1.5億円を突破。社員数は10人程度、クライアント内での新規事業創出件数は500件を超え、垂直立ち上げに成功している。この時期のアルファドライブは、麻生要一が全株式を保有する独立企業だった。

グループインの判断(2019年11月)。さらなる成長戦略のため、発行済全株式をユーザベースへ売却し、同グループへ参画した。背景には、大企業向けに新規事業開発を支援するアルファドライブと、組織開発・人材育成を担うNewsPicks for Business が事業として前後関係にあり、つながる可能性があるという判断があった。資本を得るための売却ではなく、前後関係にある二つの事業を一つにするための判断である。詳細は実装5に記す。

ユーザベースグループ期(2019年〜2024年)に立ち上げたもの。新規事業支援特化型のSaaS「Incubation Suite」、共創事業開発プログラム「NewsPicks Creations」、ドコモとの提携メディア「NewsPicks +d」、R&D部門特化型支援スタジオ「R&D Incubation Center」、企業変革マガジン「Ambitions」、配信特化型スタジオ「AlphaDrive Studio」、そしてオープンイノベーション特化型の戦略子会社「UNIDGE(ユニッジ)」。地域では、アルファドライブ高知をはじめとする地域拠点を設けている。Ambitions は、のちにクリエイティブ・メディアカンパニーとして独立した法人格を持ち、書籍の発行主体にもなっている。

カーブアウト以降(2024年〜)に立ち上げ・取得したもの。開発会社DelQuiの買収、Sun Asterisk社との合弁による株式会社GROWGRITの設立、国際事業部門 AlphaDrive International の設立と韓国 Synapse International への出資、沖縄北部のコミュニティパーク nagonova の買収と琉球アルファドライブの設立。そして2026年5月、事業領域を「新規事業」から「収益進化」へ拡張し、AX for Revenue を始動、自らCAXOに就任した。

この実装が担っているのは、理論の自己適用である。主権の配布も、連関の設計も、Ship-as-Validation も、まず自社で回した結果が顧客への提案になる。そして業態変革の思想も、自社に適用され続けている。新規事業支援会社から、メディアとスタジオを持つグループへ。さらに2026年、収益進化を中核領域とするAXカンパニーへ。

実装4:企業の外に出して育てる(2022年〜、fufumu/RePlayce)

何を、どのような条件で。大企業の社内制度から生まれた事業を、いったん企業の外へ出し、アルファドライブが資本または伴走の主体となって育てる形式である。助言ではなく、資本と雇用を引き受ける側に立っている点が、通常の支援と異なる。

fufumu/paqupa(キッコーマン)。アルファドライブが支援するキッコーマンの社内新規事業創出制度「K2」から生まれた事業。スピーディーな事業化を実現するため、2023年7月にアルファドライブの子会社として株式会社fufumuを設立し、起案者である大嶋麻里子氏と竹内崇裕氏がアルファドライブへ出向する形で事業化を推進した。2023年10月、小児のアレルギー専門医監修のもと、離乳食ブランド「paqupa」をローンチ。発売後にSNSで大きな反響を呼び、2025年7月、キッコーマングループへ譲渡された。

RePlayce/はたらく部(NTTドコモ)。ドコモグループの社内新規事業創出プログラム「docomo STARTUP」から生まれた中高生向けキャリア探究サービス。アルファドライブのアクセラレーションプログラム第1号案件として、2022年5月から約2年にわたり事業立ち上げとグロースを伴走した。2024年4月、ニッセイ・キャピタルの出資を受けてスピンアウトし、株式会社RePlayceとして再始動。親会社には戻らず、独立企業として伸びている。2025年4月には通信制高校サポート校「HR高等学院」を開校した。

この二つは、同じ型で、逆の出口に着いた。どちらも社内では速度が出ない事業を一度外へ出し、育ててから所属先を決めるという同一の構造である。それでも一方は親会社へ戻り、一方は戻らなかった。

実装5:カーブアウトを受ける側になる(2019年〜2024年)

何が起きたか(公開情報の範囲)。2019年11月、創業から1年半で垂直立ち上げを果たしていたアルファドライブは、全株式をユーザベースへ売却し、同グループの100%子会社となった。以降、NewsPicks for Business と合わせ、2法人にまたがる1カンパニーとして運営されている。

2024年2月、ユーザベースはアルファドライブの一部事業を対象にしたカーブアウトの基本合意を公表した。麻生要一が設立した特定目的会社(AD SPC合同会社)が2024年5月1日付で発行済株式の50.1%を取得し、同年10月31日を目処に残る49.9%を追加取得して資本関係を解消する、という二段階のスキームである。ユーザベース側の公表理由は、新規事業開発コンサルティング事業は麻生要一のリーダーシップの下に単独で推進し、NewsPicks関連プロダクトはNewsPicks・ユーザベースとの一体経営を強めることが、両事業の成長に最も適切であるという判断だった。

持って出た側は、イノベーション事業、アクセラレーション事業、地域共創事業(アルファドライブ高知、東海拠点、関西拠点)、スタートアップ産業支援事業(ユニッジ)、Ambitions、Incubation Inside、Incubation Suite、POT Institute、POT Assessment。置いてきた側は、コーポレートトランスフォーメーション事業、NewsPicks Learning、NewsPicks Enterprise、NewsPicks+d、JobPicks、メディアプロデュース事業である。

構造として言えること。持ち込んだ事業を持ち帰り、グループ入り後に接続した事業を置いてきた形になる。2019年に「前後関係にある二つの事業を一つにする」という判断で始まった構造が、2024年に解かれた。それ以上の経緯・判断の内実については、守秘義務の範囲にあるため記載しない。

想定と食い違った地点(五つを通して)

事業の所属先は、事業の側の理由だけでは決まらない。これが、この領域で最も繰り返し現れた食い違いである。

企業の外に出した事業について、成長させた後で元の会社に戻す前提で進めていたにもかかわらず、元の会社側の事情が変わり、結果として外に出ることが最もよい選択肢になったケースがある(複数の支援先で観察された経験知であり、個別の企業名は記載しない)。事業そのものは想定通りに育っていた。変わったのは、受け入れる側だった。

公開されている二件も、この構造の中にある。fufumuは親会社へ戻り、RePlayceは戻らなかった。この分岐は、事業の出来だけでは説明できない。

そして同じことが、アルファドライブ自身にも起きた。支援する側として設計してきた構造を、受ける側として経験したことになる。この非対称——設計する立場と、変数に晒される立場——を両方通過したことが、この領域の見立ての土台にある。

思想から実装へ持ち込んだこと(往路)

  • 主権の配布を、制度の設計言語にした。擬似的な資金調達ラウンドと擬似管理PLは、主権(配る)を会計のルールとして実装したものにあたる。決裁を降ろさずに新規事業をやらせても、回転は上がらない。
  • 撤退の編集を、ポートフォリオ運用に落とした。撤退の編集は、失敗の処理ではなく資源配分の技術として制度に組み込まれている。
  • 仮説×顧客の回転を、時間の制約とセットで設計した。企業内新規事業の最大の制約は時間である。回転数の要求から逆算して、生活サイクルの側を設計する。

実装から思想へ還元したこと(復路)

  • 業態変革こそが、不確実な時代の経営の奥義である。これがこの領域の根底にある。市場が終わるとき、事業を改善しても助からない。乗る市場と、価値の提供形態そのものを変えられるかどうかが、生死を分ける。ニジボックスで三度その判断に直面し、二度は間に合い、一度は間に合わなかった。この経験は、以後の経営判断すべてに通底している。アルファドライブが2026年に「新規事業」から「収益進化」へ領域を拡張したのも、同じ思想の適用である。
  • 成功の型が、次の転換を遅らせる。急成長を生んだ勝ち筋は、環境が変わった局面では方向転換の重石になる。強みは、そのまま慣性になる。業態変革が難しいのは、判断の難しさではなく、うまくいっている最中に判断を迫られるからである。
  • 社内起業と起業の差は、「死なないこと」にある。制度でこの差を埋めるには、審査基準ではなく会計のルールを触るしかない。擬似的な生死を再現できるかどうかが、制度の成否を分ける。
  • 事業の所属先は、永続しない。だから設計時に「最終的にどこへ帰属するか」を固定しない。外に出す形式は、独立させるためではなく速度を出すために選ぶ。所属先は、育った後の状況で決める。
  • 制度は、審査基準だけでは動かない。人事異動、評価、予算執行、契約。周辺の仕組みを同時に整えないと、どれだけ良い制度を作っても現場は止まる。

再現できる条件/できない条件

再現できる:制度設計の主体が、人事・評価・予算のルールにも手を入れられる場合。事業を一度外へ出す形式を取れるだけの資本と雇用の受け皿がある場合。撤退基準を運用しきる決裁権限が現場に降りている場合。そして、業態変革の判断を下せる主権が、経営者の手にある場合。

再現できない:審査の仕組みだけを導入し、周辺の仕組みを変えない場合。外に出した事業の所属先を、あらかじめ一つに固定してしまう場合。業態の選択が親会社や本社の事業定義に縛られている場合。そして、受け入れる側の企業に起きる変化そのものは、設計の対象外である。

関連ページ

出典

  • アルファドライブ プレスリリース 2024年4月1日(はたらく部スピンアウト)/2025年7月9日(fufumu譲渡)
  • ユーザベース お知らせ 2024年2月19日(カーブアウト実施)/Uzabase Journal 2021年6月25日(麻生要一インタビュー)
  • アルファドライブ お知らせ 2024年4月30日(発行済株式50.1%取得)
  • アルファドライブ 支援事例アーカイブ(キッコーマン paqupa ほか)
  • 麻生要一『新規事業の実践論』(2019年)/『新規事業の経営論』(2025年)/『AI収益進化論』(2026年)

History

  1. 2026.08.14新規作成
  2. 2026.08.14初版

活動:新規事業開発と経営

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