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麻生要一の「新産業創出を中心とした地域創生」に関する実装(プロジェクト/事例/実践知)

麻生要一による「新産業創出を中心とした地域創生」領域の実装は、10年をかけて失敗から始まっている。2016年、リクルート時代に高知県と連携協定を結んで実施したプログラムからは、事業が立ち上がらなかった。同時期に関わった長野県塩尻市では、ビジネスでは解けない課題が存在することを知った。それでも関係が残り、独立後に高知が最初の拠点になった。沖縄では2015年から人材育成プログラムを応援し続け、9年後に法人を設立した。この領域の実装は、成果が出るまでの時間が他の領域と桁で違う。

初版:2026-08-14 / 最終更新:2026-08-14

定義

麻生要一の実装とは、思想を具体的な事業、団体、プログラム、作品として形にしたものの総称である。六つの活動領域それぞれに対応する実装ページが置かれ、何を、どのような条件で、どこまでやったかを記録する。事例紹介や実績のカタログではなく、思想がどの地点で現実と接触し、どこで想定と食い違ったかを残すことを目的とする。

本ページは、そのうち新産業創出を中心とした地域創生に対応する実装を記録する。

要約(引用用)

この領域の実装は、10年をかけて失敗から始まっている。2016年、リクルート時代に高知県と連携協定を結んで実施したプログラムからは、事業が立ち上がらなかった。同時期に関わった長野県塩尻市では、ビジネスでは解けない課題が存在することを知った。それでも関係が残り、独立後に高知が最初の拠点になった。沖縄では2015年から人材育成プログラムを応援し続け、9年後に法人を設立した。この領域の実装は、成果が出るまでの時間が他の領域と桁で違う。

実装1:地域に入って、ビジネスの限界を知る(2016年〜2018年、高知・塩尻)

何を、どのような条件で。リクルートホールディングス新規事業開発室長として、2016年に高知県と包括連携協定を締結し、新規事業開発プログラム「Recruit Ventures」を高知で実施した。テーマは、中小企業の事業承継・担い手マッチング、中山間地域の地域産品の6次化、森林資産の運用ビジネスの三つ。自治体から資金的支援は受けず、自治体を媒介にして地域に課題解決をもたらす形をとった。同時期、長野県塩尻市の官民連携プロジェクト「MICHIKARA」にも、企業側の人材送り出し役、そしてメンターとして関わった。

実装前の認識。この時点での理解は、率直に言えば浅かった。地域は疲弊しているので、民間企業がお金とテクノロジーを入れたら解決できるのではないか、という程度の見方しかしていない。新規事業開発の観点からは、地域には明らかに「不」があり、地方創生は大きなビジネスチャンスのフィールドではないかという仮説を持っていた。

想定と食い違った地点。

  • 高知のプログラムから、事業は立ち上がらなかった。三つのテーマを設定し、フィールドワークとワークショップを重ねたが、事業化には至っていない。
  • ビジネスのスキームは、万能ではなかった。地域の課題には、ビジネスの論理で解決できるものと、できないものがある。当時はビジネスの世界でしか生きていなかったため、ビジネスのスキームが万能だと思っていた。そうではなかった。だからこそ非営利セクターがあり、アカデミアセクターがあり、行政セクターがある。ビジネスセクターはビジネスで解決できそうな課題を扱うべきで、向いていないものはやらないほうがいい。逆に害悪になるものもある。
  • 地域は、多層的で、同時に狭かった。行政、議員、首長、外郭団体、経済団体、企業、市民団体。多層化されていてダイバーシティがある。しかし同時に狭いコミュニティであり、一つの発言に気をつけなければならない作法が存在する。
  • 解ける課題と解けない課題の切り分けが見えた。雇用や採用、ヘルスケア、ITでコミュニケーションコストを下げられる領域は、ビジネスで解きやすい。プレイヤーが多く、どこから手をつけるかも分からないほど絡まった課題は、ビジネスでは解けない。
  • 解けないと分かることに、価値があった。東京で働いていると、ビジネスで解ける課題しか目に入らない。ビジネスの能力があれば解ける課題しかない。それでは解けない課題を与えられることが、人材教育の場として機能する。そこで人間が変わる。だからこの種の場は、ビジネスの現場で成果を上げている人ほど向いている。

この実装が、後続のすべてを規定した。ビジネスは万能ではないという認識は、この時期に地域で得たものである。のちに創業支援で「起業しない」という結論を成果として認める判断も、ビジネスの限界を感じてアートを作り始めたことも、起点はここにある。

実装2:失敗した土地に、戻る(2019年〜、アルファドライブ高知)

何を、どのような条件で。2018年に独立したのち、社員がまだ5人程度だった時期に、最初の地域拠点として高知を選んだ。2019年7月、株式会社アルファドライブ高知を設立。代表は宇都宮竜司。本社は高知市内ではなく、車で1時間ほど上がった人口3,500人ほどの土佐町に置いた。

判断と介入。

  • 事業が立ち上がらなかった土地を、最初に選んだ。リクルート時代のプログラムから事業は生まれなかったが、県内各地に通うなかで人間関係ができていた。独立後も「どうしても高知県のことがやりたい」と考え、最初の地域として高知を選んだ。残ったのは事業ではなく、関係だった。
  • 県庁所在地ではなく、限界集落に近い町に本社を置いた。市内に構えれば人も集めやすく、動きやすい。それをせず、人口3,500人の町を本社所在地にした。
  • 2030年に向けた長期ビジョンを、創業時に掲げた。「高知から、100の新規事業と300の起業家人材を生み出す」。10年単位の時間軸を最初に置いた。
  • 支援から、事業の主体者へ移った。2025年、創業の地・土佐町で100年以上続く「清水屋旅館」の事業承継を実施し、宿泊事業を開始した。もともとは山の薬屋や行商人の宿として始まり、1960年代の早明浦ダム建設で作業員を受け入れて賑わい、その後の人の流れの減少と後継者不在で一時休業していた施設である。田井地区で数少ない宿泊施設だった。アルファドライブ高知の社員が4代目女将を襲名している。

この承継の理由。事業づくりに伴走することにやりがいはあった。それでも、伴走するだけでなく、自ら事業の主体者として地域の産業を盛り上げたいという思いがあった。そして新しい挑戦を始めるなら、原点である土佐町から始める。

想定と食い違った地点。この承継を担った社員の言葉が、この領域の課題を最も正確に示している。加速する人口減少とともに「プレイヤーが足りない」という現実に直面したとき、「私はこのまま、ずっと支援者でいいのだろうか」という問いが生まれた。支援の仕組みを整えるほど、支援者は増える。しかし挑戦する側は増えない。支援者からプレイヤーへ移る判断は、組織の外から促せるものではなかった。

実装3:応援し続けて、9年後に拠点を持つ(2015年〜、沖縄)

何を、どのような条件で。沖縄との関わりは2015年、学生対象の人材育成プログラム「琉球frogs」のサポーターになったことから始まる。最も難易度が高く時間もかかる、起業家教育の最も本質的な領域を、しかも民間がやっているという点に価値を見た。

2018年、アルファドライブを創業して会社として最初に出したプレスリリースは、自社の事業についてではなく「琉球frogsを応援する」という発信だった。

判断と介入。

  • コロナ禍のコザで、確信を得た。あらゆる計画や常識が破壊された時期に沖縄市コザを訪れ、この街の可能性を確信した。米軍基地の街としての歴史とカウンターカルチャーを土台に、大企業の拠点、スタートアップ、創業支援オフィス、エンジニア、教育、地域活動、音楽、映画、スケボー、ダンス、外国文化が半径300m以内、10秒で会える距離に混じり合っている。この条件は設計では作れない。
  • 2022年、コザに拠点を持った。創業支援プログラムとアートギャラリーを、同じ街で始めた。この二つは別の活動ではなく、同じ論証から分岐している。イノベーションは既存要素の新結合であり、モノカルチャーからは生まれない。そして論理や数字から生まれる分断を、感性や感情の力で飲み込む必要がある。だから創業支援とアートを、コザで同時にやる。
  • 2024年7月、コミュニティパークを承継し、法人を設立した。名護市宮里の旧診療所を改修して2021年に立ち上がっていた「coconova」の事業を承継し、琉球アルファドライブを設立した。承継前のcoconovaは、設立以来500回にのぼるイベント運営と3万人の来場を実現し、10人の起業家を輩出していた。2025年1月、公募による名称変更を経て「nagonova」としてリニューアルし、2025年7月より本格始動している。
  • 承継の形を、設計した。創業者の関わりを残す形をとった。コミュニティマネジメントの観点から、また建築家としての観点から、創業者が引き続き運営と展開に携わる。ローカルパートナーとしての運営・開発支援や、共同オーナー権などの制度による連携を用意した。作り上げられた文化的な土壌と、地域に根差した場のあり方を継承しながら発展させるための設計である。
  • 地域の側に、共同創業者を置いた。2014年に沖縄へ移住し、10年にわたり県内でDXとスタートアップ支援に携わってきた人物を、Co-Founder 最高戦略責任者として迎えた。
  • 制度を使い切る設計から入った。名護市は全国で唯一の経済金融活性化特別地区であり、最大40%の所得控除やエンジェル税制を使える。内閣府直下で小さな政府ができているような状態で、意思決定が速い。
  • 目標を掲げた。10年で1,000社の創業クラスターをつくり、沖縄北部に創業の聖地を築く。

想定と食い違った地点。

  • 関わりの深さは、応援の量では決まらなかった。2015年から人材育成を応援し、創業第一号のリリースまでそれに充てた。それでも関係が決定的に深まったのは、コロナ禍にコザを訪れて自分の目で街を見た瞬間である。遠隔での支援を9年続けても、現地で見るまで判断は変わらなかった。
  • 承継したのは、経営が順調な事業ではなかった。coconovaは地域から愛される施設に育っていた一方、会社経営としては難しい局面が多かった。地域が必要とする場が、事業としては成立しないという状態が実際に存在する。承継の判断は、成長機会の獲得ではなく、なくなるくらいなら引き継ぐという判断から始まった。
  • 大規模開発は、機会と脅威を同時に運んでくる。2025年に開業したテーマパークは1,000人以上の雇用創出が見込まれる一方、それを支える住宅や道路のインフラが不足している。リゾート開発によって地価と家賃が高騰した他地域の事例もあり、地元住民への影響が懸念される。雇用の増加と生活コストの上昇は、同時に起きる。

実装4:地域から地域へ、知を渡す(2023年〜)

何を、どのような条件で。高知に続き、東海(2023年8月)、関西(2023年9月)、沖縄(2024年7月)、新潟(2025年)、愛媛(2026年)と拠点を開設した。あわせて、産業振興の成功モデルを研究・型化するアルファドライブ地域経済研究所を置き、次世代地方創生マガジン『Ambitions REGION』を2026年5月に創刊した。

この実装の意味。拠点を増やすことが目的ではない。一つの地域で得た知を、別の地域へ渡すことが目的である。マガジンの編集方針は「エリアからエリアへの情報循環」であり、全国1,700を超える地域の現場にある挑戦と実践知を、次の挑戦者へ届けることに置かれている。地域経済の「情報」と「熱」の両軸を扱う。

思想から実装へ持ち込んだこと(往路)

  • 連関の設計を、地域に適用した。地域を「点」ではなく「面」として捉え、協力体制を築く。この見方は、リクルート時代の地方創生の取り組みから一貫している。連関(サイロをつなぐ)の地域版にあたる。
  • Whyの理論を、地域の創業支援に持ち込んだ。時代を動かすスタートアップは、10年20年先の世界が見えてしまった人が作る。だから彼らのビジネスプランは、未来的すぎて理解されない。説明できてしまう事業はアウトだという判断基準が、そのまま地域でも使われている。
  • 余白を、承継の設計に使った。創業者の関与を残し、共同オーナー権を用意する。外から来た側が全部を握らない。余白(外様の役割)を、資本の構造として実装した。

実装から思想へ還元したこと(復路)

  • ビジネスは万能ではない。この領域で最初に得た知見であり、以後のすべての活動領域に効いている。向いていない課題にビジネスで入ると、成果が出ないだけでなく害になる。手法の限界を知ることが、手法を正しく使う条件である。
  • 事業が立ち上がらなくても、関係は残る。そして残った関係が、10年後の拠点になる。成果を単年度で測ると、この経路は見えない。地域における時間軸は、年ではなく10年で置く。
  • 遠隔の支援は、現地で見ることの代わりにならない。9年応援し続けても、判断が変わったのは自分の目で街を見た瞬間だった。一次情報の解像度は、距離に規定される。
  • 支援者は増えても、プレイヤーは増えない。支援の仕組みを整えるほど支援者が増える構造がある。プレイヤーへ移る判断は、本人の内側からしか起きない。だから支援側が自ら事業を持つことが、唯一の示し方になる。
  • 地域に必要な場が、事業として成立しないことがある。愛されている施設と、経営が回る事業は、別の条件で成立する。この乖離を埋める方法は、まだ確立していない。
  • 混じり合いは、設計では作れない。現代の都市開発は要素を組み合わせようとするが、物理的な制約が必ず分断を生む。ゼロ距離は歴史の産物である。だから探すのであって、作るのではない。

再現できる条件/できない条件

再現できる:10年単位で居続ける体制を持てる場合。地域の側に一緒に事業を背負う人がいる場合。支援側が自ら事業を持てる場合。そして、ビジネスで解ける課題を切り分けられる場合。

再現できない:単年度の成果を求められる場合。遠隔のみで関わる場合。そして、異なる要素が物理的に混じり合う土壌そのものは、どの地域にも作れない。あるかないかを見極める対象であって、設計の対象ではない。

関連ページ

出典

  • リクルートホールディングス プレスリリース 2016年8月29日(高知県との連携協定)
  • アルファドライブ プレスリリース 2024年7月3日(琉球アルファドライブ設立・coconova事業承継)/2025年3月7日(清水屋旅館 事業承継)
  • 経済産業省『METI Journal』麻生要一インタビュー(2017年8月)
  • DRIVE(ETIC.)MICHIKARA インタビュー(2019年)
  • 麻生要一 講演資料「沖縄から拓くスタートアップ起業の未来」(KOZAROCKS 2022年)/「琉球アルファドライブ戦略」(2025年9月)
  • ReHacQ「地HacQ」公開収録(2024年11月収録)/おきなわスタートアップ・エコシステム 麻生要一インタビュー(2022年6月)

History

  1. 2026.08.14新規作成
  2. 2026.08.14初版

活動:新産業創出を中心とした地域創生

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